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エスキューブ メールマガジン 2022年3月号

メルマガ3月号をお届けします。先日お知らせしましたとおり、いよいよ来月から日本特許庁の登録料の他、欧州特許庁でも値上げが予定されています。4月以降に期限が来る案件についても早めに見直しをして、できるだけ値上げ前に処理できると良いですね。

━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━

                       2022年3月号

━ コンテンツ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

知財基礎講座■

(2)特許出願公開の効果

ニューストピックス

●新しいタイプの商標の出願・登録状況を公表(特許庁)

●中国がハーグ国際意匠制度に加盟

●「柿の種」類似パッケージで和解(亀田製菓と久慈食品)

●大学等における産学連携実施状況を公表(文部科学省)

●国際特許出願、中国が3年連続1位(WIPO)

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特許庁は、新しいタイプの商標に関する出願・登録状況を公表しました。

従来の文字や図形商標に加えて、音や色彩といった新しいタイプの商標登録の対象が拡大されたことによって、よりバリエーションのある商標の保護が可能となりました。ブランド戦略立案の際には、新しいタイプの商標登録についても、検討されてみてはいかがでしょうか。

知財基礎講座

(2)特許出願公開の効果

質 問

 当社が販売している製品に対して、「自社の特許出願に抵触する」、「補償金」などと記載されている「警告書」を受け取ったのですがどうすればよいでしょうか?

回 答

 今回のご質問は、特許出願公開が行われた後に、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者に対して特許出願人が送付できる補償金請求権の警告書に関するものです。

<特許権取得の効果は特許権成立後に初めて発揮される>

 特許出願を行って特許庁の審査を受け特許権が成立した後は、特許権者のみが特許発明を独占排他的に実施できます。特許権者以外の者が、事業として特許発明を実施する(例えば、特許発明品を会社の事業として製造し、販売する)と、特許権侵害になり、特許権者から差止請求(特許法第100条)や、損害賠償請求(民法第709条)を受けることになります。

 しかし、これは、特許権成立して以降の第三者の実施行為に関してだけです。第三者が同一の実施行為を特許権が成立する前から継続して行っていても、特許権成立前の実施行為は、差止請求、損害賠償請求の対象になりません。

<特許出願公開公報掲載の発明を第三者が実施すると不法行為?>

 特許制度は産業発達を目的とし、新規で進歩性を有する発明をだれよりも先に公開(特許出願)した者に、所定の期間(原則として出願日から20年を越えない期間)、当該発明を、独占排他的に実施できる権利(特許権)を与え、一方で、第三者には利用の機会(特許権存続期間中は実施許諾を受けて、特許権消滅後は自由に実施できる)を与えるものです。

 そこで、特許出願では、特許請求している発明を明確に記載し、また、特許請求している発明をその技術分野の者が再現(実施)できる程度に説明する必要があります。第三者が発明を再現(実施)できる程度に説明が行われていなければ産業の発達に結びつかないからです。

 しかし、第三者の実施行為が特許権侵害になるのは上述したように、特許権成立後の行為のみです。上述したようにその技術分野の者が発明を再現できるように十分な説明が行われている特許出願公開公報掲載の発明を、特許出願人以外の第三者が実施していても、特許権成立前であればそれは不法行為ではなく、特許出願人は、損害賠償請求、差止請求も行うことができません。

<補償金請求権を発生させるための警告書>

 これでは、新規で進歩性を有する発明をだれよりも先に公開(特許出願)した者への保護に欠けることになります。

 そこで、特許出願公開公報発行後、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者を知った時には、次のような内容の「警告書」を送付することが特許出願人に認められています。これを補償金請求権といいます(特許法第65条)。

 「御社が製造・販売されている○○は当社が特許出願し、その内容が別途の書留便でお届けする特許出願公開公報(特開20○○-○○○号)の特許請求の範囲で特許請求している発明の実施品に該当します。そこで、当社の特許出願について特許庁での審査によって特許権が成立し、御社が製造・販売されている○○が特許権侵害品に該当することになった時には、この警告書をお届けした時点から特許権成立までの御社による○○の製造・販売行為に対する実施料相当額を『補償金』として当社に支払うよう請求させていただくことになります。」

 特許出願公開公報に掲載されている発明を第三者に実施されたことによる出願人の損失を塡補する目的で、その実施をした第三者に対して補償金を請求できる権利を特許出願人に認めたものです。

<補償金請求権の警告書を受け取った時の対応>

 上記の警告書を送付しても、補償金請求権を行使できるのは特許権が成立してからです。すなわち、特許権が成立しなければ、警告書送付後、特許権成立までの実施行為に対して遡って実施料相当額を請求することはできません。

 すべての特許出願は、原則として、出願日から1年6月経過した時点で特許出願公開されますが、その中の30~35%程度は出願日から3年の間に審査請求が行われないことで出願日から3年経過した時点で消滅します。また、審査請求したものの中で特許成立するのは60~70%程度です。すなわち、出願公開公報が発行されたものの中で最終的に特許成立するのはその中の40~50%程度です。しかも、審査の過程で特許出願前に存在していた先行技術文献を指摘され、進歩性の存在を主張するために、特許出願公開公報が発行された時点よりは特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなって特許成立することが多くなります。

 このため、特許出願公開公報の特許請求の範囲の記載では特許権侵害になる可能性があったが、審査の結果、特許成立しなかった、あるいは、特許成立したが特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなったので特許権侵害にはならず、補償金請求権も行使できないことになるのがよくあります。

 そこで、補償金請求権の警告書を受け取ってもあわてることなく、「特許庁での審査の結果を待ちます」として実施行為を継続することが可能です。また、警告書を送ってきた特許出願に特許成立しないように、先行技術文献を特許庁に提出して審査に利用してもらうようにすることもできます。

 いずれにしても、特許出願公開公報発行後に特許出願公開公報掲載の発明を実施している第三者を発見した、あるいは、上述した補償金請求権の警告書を受け取った場合には、専門家である弁理士に対応を相談することをお勧めします。

<補償金請求権の警告書を送付した者が負う責任は?>

 特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している者に対して補償金請求権の警告書を送付したところ、相手方が実施行為を中止し、例えば、購入していた原材料を費用発生させて廃棄処分した、等の対応まで行ったにもかかわらず、特許庁の審査で特許権は成立しなかった、ということが起こり得ます。このような場合でも、補償金請求権の警告書を送付していた特許出願人が損害賠償請求(民法第709条)などの責任追及を受けることはありません。

 特許と同じく、技術的思想の創作を保護するものとして実用新案権がありますが、実用新案権の場合、警告を行った後に、その実用新案権が無効審判請求を受けて無効になってしまったときには、警告書を送付した実用新案権者が無過失賠償責任を負うことがあります(実用新案法第29条の3)。この点が、特許出願公開公報発行後に償金請求権の警告書を送る場合と大きく異なります。

次回は、この点に関するご質問への回答を紹介します。

■ニューストピックス■

●新しいタイプの商標の出願・登録状況を公表(特許庁)

特許庁は、新しいタイプの商標に関する出願・登録状況(マドプロ出願を除く)を公表しました。

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_wg/document/30-shiryou/02.pdf

2022年1月31日現在、音商標の出願は708件で、355件が登録されています。位置商標の出願は546件で106件が登録、動き商標の出願は216件で、154件が登録、ホログラム商標の出願は20件で15件が登録。

色彩のみからなる商標については、533件の出願がなされていますが、このうち登録されたのはわずか8件と少ない状況です。

2015年4月1日より、従来の文字や図形商標に加えて、音や色彩等についても登録が可能となり、様々なバリエーションのブランド展開を行うことができるようになりました。

①音商標

音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標(例:CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音)

②色彩のみからなる商標

単色又は複数の色彩の組み合わせのみからなる商標

(例:商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩など)

③位置商標

文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標

④動き商標

文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標

(例:テレビやコンピューター画面等に映し出される変化する文字や図形など)

⑤ホログラム商標

文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標

(例:見る角度によって変化して見える文字や図形など)

●中国がハーグ国際意匠制度に加盟

世界知的所有権機関(WIPO)は、中国がハーグ国際意匠制度(1999年ジュネーブ改正協定)に加盟したと発表しまた。これにより、ハーグ制度による意匠出願において、中国を指定することが可能になります。

協定の発効は2022年5月5日。同日以降、中国を含む94か国を対象とする意匠の国際登録出願ができるようになります。

中国はジュネーブ改正協定の68番目の締約国となり、ハーグ協定の77番目の締約国となります。

なお、改正協定は中国政府からの別段の通知がない限り、香港とマカオには適用されません。

「柿の種」類似パッケージで和解(亀田製菓と久慈食品)

菓子大手の「亀田製菓」は、自社製品「亀田の柿の種」をめぐり、パッケージが類似しているとして、不正競争防止法に基づき販売差し止めなどを求めていた他社製品について、新たなデザインへ変更することで和解が成立したと発表しました。

亀田製菓は、主力商品である「亀田の柿の種」で1994年から現在の配色を基調としたデザインのパッケージを使用。

亀田製菓は久慈食品の「柿ピー」のパッケージデザインが類似し、消費者が誤認する恐れがあるとして、久慈食品側へ販売中止やパッケージデザインの変更を求めていましたが、久慈食品が販売を継続する意思を示したため、製造・販売の差し止めなどを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てていました。

(亀田製菓製品のパッケージと仮処分命令申立の対象となった久慈食品製品のパッケージ)

(亀田製菓のプレスリリース「株式会社久慈食品に対する差止め等仮処分命令申立てに関するお知らせ」から引用)

和解により久慈食品は、パッケージを新たなデザインへ変更します。

(久慈食品の新旧パッケージ)

(亀田製菓のプレスリリース「株式会社久慈食品に対する仮処分命令申立てに関する和解成立のお知らせ」から引用)

●大学等における産学連携の実施状況を公表(文部科学省)

文部科学省は、令和2年度「大学等における産学連携等実施状況」を公表しました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1413730_00013.htm

【特許権などの知的財産権等による収入額】

特許権などの知的財産権等による収入額は約56億円と、前年度と比べて約4.1億円増加(7.9%増)。このうち、特許権における収入は約40.3億円と、知的財産権等による収入額全体の約72.6%を占めています。

【研究資金などの受入額】

研究資金等受入額(共同研究・受託研究・治験等・知的財産)は、約3,689億円と、前年度と比べて約206億円増加(5.9%増)。

民間企業からの研究資金等受入額(共同研究・受託研究・治験等・知的財産)は、約1,224億円と、前年度と比べて約38億円増加(3.2%増)。このうち、共同研究による研究費受入額は約847億円と、研究資金等受入額全体の約69.2%を占めています。

【民間企業との共同研究】

民間企業との共同研究においては、研究費受入額は約847億円と、前年度と比べて約50億円増加(6.3%増)。このうち、1件当たりの受入額が1,000万円以上の共同研究に係る受入額は、約466億円と、前年度と比べて約54億円増加(13.2%増)。

1件当たりの受入額の平均は約2,941,000円であり、前年度から約221,000円増加(8.1%増)。

●国際特許出願件数、中国が3年連続1位(WIPO)

世界知的所有権機関(WIPO)は、特許協力条約(PCT)に基づく2021年の国際特許出願件数を発表しました。

https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2022/article_0002.html

2021年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けながらも、世界全体で出願されたPCT出願件数は0.9%増の27万7500件となり、過去最高を更新しました。

【国別の出願件数】

国別の出願件数をみると、中国が前年比0.9%増の6万9,540件で、3年連続の首位となりました。2位は米国の5万9600件(1.9%増)、3位は日本の5万300件(0.6%減)、4位は韓国の2万700件(3.2%増)、5位はドイツの1万7300件(6.4%減)。

【企業別の出願件数】

企業別では、中国の華為(ファーウェイ)が6952件で1位となりました。2位は米クアルコム(3931件)、3位は韓国サムスン(3041件)、4位は韓国LG電子(2885件)、5位は日本三菱電機(2673件)。技術分野では、コンピュータ技術(全体の9.9%)が最大のシェアを占め、次いでデジタル通信(9%)、医療技術(7.1%)、電気機械(6.9%)、測定(4.6%)と続いています。

【商標の出願件数】

また、2021年のマドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録出願件数は、世界全体で14.4%増の7万3100件となり、05年以降では伸び率が最大となりました。国別では、1位が米国の1万3276件、2位はドイツの8799件、3位は中国の5272件でした。

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