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メルマガ9月号をお届けします。今月の知財基礎講座では「特許表示、虚偽表示」についてお伝えします。
また、 特許権侵害、企業の紛争や手続きなどビジネスに関連する訴訟を集中して取り扱う「ビジネス・コート」が
10月から業務を開始します。 詳しくはニューストピックをご覧ください。
━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2022年9月号
━ コンテンツ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■知財基礎講座■
(8)特許表示、虚偽表示
■ニューストピックス■
●知財高裁など入る「ビジネス・コート」、10月業務開始
●米モデルナ社が、米ファイザー社と独ビオンテックを特許侵害で提訴
●中外製薬・米国における特許権侵害を巡りFresenius社と和解
●第一三共・がん治療薬ADC技術に関する紛争について仲裁廷が米Seagen社の主張を全面否定
●特許庁(JPO)・代理権の証明として、委任状の写しの提出が可能に
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■知財基礎講座■
(8)特許表示、虚偽表示
【質 問】
特許出願を行ったので特許出願済の発明が採用されている製品に「特許出願中」と表示してよいですか?「虚偽表示はやってはいけない」と聞いたことがあるのですが、どんなことが「虚偽表示」になるのでしょうか?
【回 答】
現実に特許出願中の発明が採用されている物に「特許出願中」と表示することは問題ありません。ところで、特許法には特許表示に関する規定がありますが、特許出願中の表示に関する規定はありません。特許表示に関する規定を紹介しながら「虚偽表示」について説明します。
<特許表示>
特許法では次のように規定されています。
「特許権者は、物の特許発明におけるその物、もしくは物を生産する方法の特許発明におけるその方法により生産した物(以下「特許に係る物」という。)又はその物の包装(容器を含む)に、その物又は方法の発明が特許に係る旨の表示(以下「特許表示」という。)を付するように努めなければならない。」(特許法第187条)。
「特許に係る物に特許表示を付することは、その物が特許権の対象であることを明示し、権利侵害を未然に防ぐ効果を有する」(特許法逐条解説)と考えられています。
「付さなければならない」ではなく「付するように努めなければならない」ですので、本条に違反しても罰則等の制限はありません。
すなわち、特許に係る物に特許表示をしていなかったからといって、第三者による特許権侵害行為を特許権に基づいて排除する際、損害賠償請求が難しくなるというようなことは我が国ではありません。
ただし、外国では異なる取り扱いがされることがあります。外国での取り扱いについては弁理士にご相談ください。
特許表示の仕方については「物の特許発明の場合は『特許』の文字と特許番号、物を生産する方法の特許発明の場合は『方法特許』の文字と特許番号を表示すること」とされています(特許法施行規則第68条)。
そこで、特許第○○○○号や、方法特許第○○○○号と表示するのが特許法で推奨されている特許表示になります。
<虚偽表示>
「特許に係る物以外の物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為」などは、虚偽表示にあたるとして禁止されています(特許法第188条)。
特許法逐条解説では、ある物について特許がされていない場合、たとえば、ある鉛筆がなんら特許に係らない物である場合に、「その鉛筆に特許表示を付する行為」、「特許表示を付した鉛筆を譲渡する行為」、「鉛筆を製造させるため広告にその鉛筆が特許権の対象である旨を表示する行為」、「実際には製造方法が特許の対象ではないにもかかわらず広告にその鉛筆の製造法が特許権の対象である旨を表示する行為」が虚偽表示に該当する具体例として紹介されています。
「〔虚偽表示の禁止〕の規定(特許法第188条)に違反した者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する」とされています(特許法第198条 虚偽表示の罪)。
したがって、特許出願日から20年が経過することで特許権が消滅した、あるいは、特許権を維持するための特許料(特許維持年金)の特許庁への納付を中止したことで特許権が消滅したならば、速やかに、「特許第○○○○号」等の特許表示を削除する必要があります。
特許法が推奨している特許表示は「特許第○○○○号」ですから、よく目にする「PAT.○○○○」(「PAT.」は「Patent」(特許)の省略形であると思われます。)という表示は特許法が推奨している特許表示ではありません。
「特許表示と紛らわしい表示を付する行為」は虚偽表示であるとされていますが、現存している特許権の対象になっている物に相違ないならば「PAT.○○○○」という表示を特許表示として使用していても「虚偽表示に該当する」との指摘を受けることは無いと思われます。
<特許出願中の表示>
特許出願中の表示に関して特許法には規定がありません。
一方、商品が特許出願を行っている新規な技術を採用したものであることを積極的に宣伝したり、同業者が直ちに後追い商品を市場に出すことを牽制するという意味で、特許出願中の表示を行うことには意義があると思われます。
特許法に規定が存在していないので特許法で推奨されている特許出願中の表示はありませんが、「特許出願中」という表示や、「PAT.P」という表示を目にすることがあります。「PAT.P」は「Patent Pending」の省略形であると考えられています。
特許表示では虚偽表示が禁止されていて刑事罰の対象にまでなっていますので、特許出願中の表示を行う場合にも虚偽の表示にならないように注意を払うべきと思われます。
日本の現状では、特許表示として「PAT.○○○○」という表示を用いることが許容されていますので、現実に特許出願を行っている物であれば「特許出願中」あるいは、「PAT.P」という表示を行うことが許容されると思われます。
ただし、所定の期間内に審査請求を行わなかったことで特許出願が消滅したあるいは、特許庁の審査で「特許を認めることができない」とする「拒絶査定」を受け、確定して特許出願が消滅した場合などでは、速やかに特許出願中の表示を削除する必要があります。
また、古い判決ですが「特許出願済」という表示は「特許に係ることの表示に紛らわしい表示」と判断されたことがあります(大審院昭5年10月12日)。そこで「特許出願済」という表示よりは「特許出願中」という表示の方が望ましいと思われます。
<「国際特許」という表示>
ときどき「国際特許取得」、「国際特許」という表示を目にすることがあります。
特許協力条約(PCT)に加盟している世界の複数の国に同時に特許出願を行ったという効果を発揮させることのできる「国際出願」というものは存在していますが「国際特許」というものは存在していません。
日本国なら日本国特許庁、米国なら米国特許庁のように、世界各国の特許庁でそれぞれ別個独立に審査を受け、特許性が認められて各国ごとに成立した特許がその国の領域内において効力を発揮するのが原則で、日本国特許、米国特許という各国ごとの特許しか存在していません。
「国際特許取得」、「国際特許」という表示は、おそらく、「国際出願」を行ったことを誤解し、間違って表示しているのではないかと思われます。
<次号のご案内>
特許出願を行った後、あまり間をおかずに、特許出願した発明についての改良を見つけ出すことがあります。特許出願済の発明についての改良ですので、別途に新たな特許出願を行うのではなく、出願済の特許出願の中に組み入れて一件の特許出願で対応することができないか、次回はこのような問題についてのご質問に回答します。
■ニューストピックス■
●知財高裁など入る「ビジネス・コート」、10月業務開始
特許権侵害、企業の紛争や手続きなどビジネスに関連する訴訟を集中して取り扱う「ビジネス・コート」が東京・目黒区に開設され、10月から業務を開始します。10月11日から知財高裁、17日から東京地裁の知的財産部と商事部、24日から倒産部が業務を開始する予定です。
選択と集中によりビジネス関連部署を集約した上で相互連携し、デジタル化による効率性を積極的に追求するとともに、専門性・国際性の一層の充実・強化を図り、利用者(ユーザー)の期待に応える新しい裁判所を実現することが期待されます。
▼ニュースリリースはこちらをご覧ください。
・2022年10月ビジネス・コートが開庁します。
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/2022/202207annaitirasi.pdf
・ビジネス・コートのコンセプトについて
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/2022/202208businesscourt-concept.pdf
●米モデルナ社が、米ファイザー社と独ビオンテック社を特許侵害で提訴
モデルナ社は、ファイザー社とビオンテック社が新型コロナウィルスワクチンComirnaty®「コミナティ」の開発において、同社のmRNA技術に関する特許権を侵害したとして、2社を提訴したことを2022年8月26日に発表しました。
モデルナ社は、2010年~2016年の間に特許出願し、同社ワクチンを保護する画期的な技術を、ファイザー社とビオンテック社が許可なくコピーして、Comirnaty®「コミナティ」を開発したと主張しています。
しかしながらモデルナ社は、Comirnaty®「コミナティ」の市場からの排除や販売差止は求めない方針であり、今年3月8日以降に発生した損害賠償は請求するが、ファイザー社による低・中所得国92カ国への販売については損害賠償請求をしない、とも述べています。
これを受けて、ビオンテック社は「弊社の技術は独自のものであり、特許侵害の訴え対しては、積極的に反論する」と発表しました。
▼ニュースリリースはこちらをご覧ください。
・Moderna, Inc. website
https://investors.modernatx.com/news/news-details/2022/Moderna-Sues-Pfizer-and-BioNTech-for-Infringing-Patents-Central-to-Modernas-Innovative-mRNA-Technology-Platform/default.aspx
・BioNTech SE. website
https://investors.biontech.de/news-releases/news-release-details/statement-patent-infringement-lawsuit-filed-moderna
●中外製薬・米国における特許権侵害を巡り米Fresenius社と和解
中外製薬株式会社(東京都中央区)は8日、ロシュ社およびジェネンテック社と共に、2020年3月19日に提起したアレセンサ®(一般名:アレクチニブ塩酸塩、抗悪性腫瘍剤/ALK阻害剤)に関する訴訟について、2022年8月5日にFresenius社と和解契約を締結したことを発表しました。
本訴訟において、米国における医薬品価格競争および特許期間回復法(いわゆるハッチ・ワックスマン法)に基づき、中外製薬らはFresenius社が米国食品医薬品局へ提出したアレセンサの後発医薬品の簡略新薬承認申請が、中外製薬保有の米国特許(第9,126,931号、第9,440,922号、第9,365,514号および第10,350,214号)に抵触すると主張していました。
本和解契約の締結に伴い、中外製薬らは、Fresenius社と共同で、特許権侵害訴訟の取り下げ手続きを行うことを明らかにしました。
▼プレスリリースはこちらをご覧ください。
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20220808170000_1242.html
●第一三共・がん治療薬ADC技術に関する紛争について仲裁廷が米Seagen社の主張を全面否定
第一三共株式会社(東京都中央区)は、抗体薬物複合体(ADC)技術に関するSeagen社との紛争について、仲裁廷が Seagen社の主張を全面的に否定する判断を下したことを2022年8月13日に発表しました。
2008年から2015年に行ったSeagen社との共同研究に関連して、同社からADC技術に関する特定の知的財産権が同社に帰属するとの主張を受け、第一三共は、2019年11月、デラウェア州連邦地方裁判所に同社を被告として確認訴訟を提起していました。
今回の仲裁廷の判断により、第一三共はADC技術に関する知的財産権をこれまでどおり保持し、今後もADC製品の開発と商業化を進めていくことを明らかにしました。また、眞鍋社長兼CEOは、「第一三共の強みであるサイエンス&テクノロジーを誇りに思うとともに、がん治療において新たな標準治療を必要とする患者さんに当社のADC製品をお届けするよう取り組んでまいります」とコメントしました。
▼プレスリリースはこちらをご覧ください。https://www.daiichisankyo.co.jp/files/news/pressrelease/pdf/202208/20220813_J.pdf
●特許庁(JPO)・代理権の証明として、委任状の写しの提出が可能に
特許庁(JPO)は、行政手続の利便性向上への対応として、委任状の原本の写し(以下「委任状の写し」という。)についても、代理権を証明する書面として許容することを公表しました。
委任状の写しに係る改正は、令和4年9月下旬から施行される予定です。改正後は、委任状の原本に加え、委任状の写しの提出により、代理権の証明が可能になります。なお、PCT国際出願の場合は、国内手続と異なる運用となりますので、詳細は特許庁(JPO)のホームページをご確認ください。
▼詳細は特許庁(JPO)のホームページをご参照ください。https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/madoguchi/info/dairiken_shomei.html
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発行元 エスキューブ株式会社/国際特許事務所
弁理士 田中 康子
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