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医薬品特許戦略ブログ 第18回:先発対後発の対峙と戦いの場

先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。

今回は、先発対後発の対峙と戦いの場について

日本では訴訟は多くありませんが、先発対後発医薬品の特許係争は、戦いの経験値を上げた両軍が新たな技巧や戦略を繰り出し、過熱の一途をたどっています。今回は、先発対後発医薬品の戦略と戦いの場について紹介します。

1 先発の戦略

 先発品は、特許制度と再審査制度(薬機法14条の4、海外では「データ保護制度」)により保護されている。先発品が承認されると再審査期間が付与される。期間は、新有効成分を含む先発品では8年であり、承認の内容(効能・剤形追加等)によって4~10年となり、この期間中は後発医薬品を申請することができない。また、特許期間は、延長を含めると出願から最大25年間となるが、期間が満了するまで後発医薬品の承認や薬価収載(製造販売)は抑制される。再審査期間と特許が切れることをLOE(Loss of Exclusivity)という。

 この様な背景から、先発メーカーは、ある有効成分について、最初の先発品が承認を得た後、その有効成分について効能や剤形の異なる医薬品を開発するとともに、製品を保護する特許を、時期をずらして出願し、再審査制度と特許による保護期間を最大限活用して、LOEを少しでも遅らせるLCM(Life Cycle Management)を行う。そして、先発の特許が存在するにもかかわらず、後発品が市場に参入した場合には、特許侵害訴訟により後発品の参入を阻止する。

2 後発の戦略

 後発品は、少しでも早く市場に参入することが重要である。そのため、再審査期間終了後すみやかに当局への承認申請ができるよう開発を進める。後発品が承認されるためには、承認予定日に先発の物質・用途特許が存在しないことが必要である(パテントリンケージ第1段階)。さらに、承認後、薬価収載を希望する際には、先発特許を侵害しないことについて、先発側との調整(事前調整:パテントリンケージ第2段階)を行うよう厚生労働省から通知が出ている。

 そのため、後発品承認予定日と薬価収載の時点における先発特許の有無を調査することは、後発品開発の一部といえる。再審査期間は短縮できないが、特許は無効審判等により潰すことができるので、後発品参入の妨げになる先発特許が存在する場合、予め無効審判を請求して特許を無効化することが後発の戦略である。

3 戦いの場-その1:特許無効審判

 特許無効審判(特許法123条1項;以下、「無効審判」)とは、すでに登録されている特許に関して、特許性がない(無効理由がある)ことを主張して、特許庁において特許の無効を求める審判である。利害関係のある者だけが審判請求可能であり、先発と後発の特許係争では、後発品参入の障壁となる特許を潰す手段として利用される。無効理由は、例えば、新規性や進歩性の欠如、あるいは、サポート要件や実施可能要件といった特許の記載要件の違反等である。無効審判で特許が無効であるとの審決が確定すると、特許権は遡及的に消滅する。審決の内容に不服がある場合、知財高裁、さらに最高裁へと上訴の道がある。審決や判決で、下級審への差し戻しが命じられる場合を考慮すると、差し戻しと上訴の繰り返しにより、特許庁の最初の審決から確定まで、相当の期間を要する場合もある。

 最近の無効審判では、審判請求後に審判を取下げるケースが散見される。審判は取下げられると権利範囲は元のままとなる。おそらく特許権者(先発)と審判請求人(後発)が、審判を取下げる代わりに特許権の行使をしない、またはライセンスするという交渉をしているものと思われる。そうなると、他の後発メーカーは、改めて無効審判を請求しなければならない。このような状況を危惧してか、後発メーカーにより無効審判が請求された後、他の後発メーカーがその審判に当事者参加(特許法148条1項)するケースが増えている。当事者参加とは、審判請求人の地位を有する者が審判に参加することをいい、当事者参加人は、たとえ審判請求人が審判を取下げても審判を続けることができる。

 また、無効審判における特許権者の防御策として、特許の権利範囲(特許請求の範囲)の訂正(修正)が行われる(訂正制度:特許法134条の2)。権利範囲を訂正することにより、審判請求人が挙げた無効理由から逃れ、特許が潰されるのを防ぐ方法である。多くの無効審判で複数回の訂正が行われるので、無効審判が確定するまで特許の内容は変化することになる。

 尚、無効審判と同様に特許を潰す方法として、特許異議申立(特許法113条)がある。無効審判と異なり、誰でも異議申立ができるので、申立人の正体がバレないようダミー(実際に存在し、特許庁からの郵便や電話を受けられる人)を利用するのが常套手段である。ただし、異議申立ができるのは、特許公報が発行されてから6カ月以内である。

4 戦いの場-その2:特許権侵害訴訟

 特許権侵害訴訟(以下、「侵害訴訟」)とは、特許権が侵害されていること又は侵害されるおそれがある場合、特許権者が、特許権を侵害する者(侵害するおそれがある者)に対して、その侵害行為を中止すること(差止)、侵害により被った損害を賠償すること(損害賠償)等について請求する訴訟をいう。まずは東京地裁または大阪地裁に提訴し、地裁判決に不服の場合は知財高裁への控訴、さらに最高裁への上告が可能である。

 また侵害訴訟とは別に、特許権が侵害されていること又は侵害されるおそれがある場合、民事保全法の仮処分の申立(民事保全法23条2項)を行うこともできる。特許権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため差止めを必要とする場合に、本案訴訟の判決を得るまでの仮の救済として利用される。ただし、特許侵害に基づく場合、特許が無効になると被保全権利(特許権)が存在しなくなるので、特許の有効性については慎重に判断されるようである[i]。

 また、特許権侵害による差止請求権あるいは損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴訟(債務不存在確認訴訟)もあり、ハラヴェン®(エリブリンメシル酸塩)事件で注目を集めた。


[i] 中村彰吾、パテント、Vol.57 No.10、37-53(2004)

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