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医薬品特許戦略ブログ 第22回:後発医薬品の開発スケジュールと特許戦略

先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。

今回は、後発医薬品の開発スケジュールと特許戦略について

後発医薬品の開発スケジュール

後発医薬品(厳密には、本稿で取り上げるのは「ジェネリック医薬品」)の開発は、まずどの品目(先発医薬品)を開発するかを検討する品目選定からスタートする、その後、製剤研究と同等性試験を経て、承認申請へと進む。そして厚労省(PMDA)での審査をクリアすると承認され、続いて薬価基準に収載(薬価収載)されるとようやく販売を開始することができる。

後発医薬品の特許戦略

後発医薬品の開発スケジュールに沿って、特許戦略の立て方について解説する。

1 品目選定:数年以内に先発の独占期間(再審査期間・特許期間)が終了する開発候補品を選ぶ

品目選定は、後発医薬品としての開発候補を選定するステップである。この段階では、先発の独占期間、すなわち再審査期間の終了時期と特許切れの時期を確認し、「数年以内」にこれら期間が満了する先発品を選ぶ。再審査期間は承認日を、特許期間は特許出願日を、それぞれ基準として計算されるため、両期間の終期は異なるのが通常である。再審査期間は短縮することはできないので、再審査期間が後に終了する場合は、再審査期間を軸に開発スケジュールを構築することになる。一方特許期間は、特許無効審判等により特許を潰すことができれば、特許満了日より早く終了する場合もありうるので、再審査期間終了後も特許期間が残る場合は、特許期間満了を待つか、特許期間満了前に特許を潰して、より早く参入することが可能かどうかも合わせて検討すべきであろう。

「数年以内」というのは、後発品の開発期間(平均約3~4年程度)と先発特許のパテントクリアランスの期間(1~3年程度か)を考慮して定めるのが適当であり、大よそ5年から7年程度が妥当である様に思われる。

2 承認申請まで:パテントクリアランスの徹底

品目選定の後、製剤研究から同等性試験へと進み、申請の準備を行う。この段階では、パテントクリアランスを徹底的に行う必要がある。

2.1 パテントクリアランスの進め方

パテントクリアランスでは、まず特許調査(侵害防止調査)を行い、調査結果の読み込み(スクリーニング)を行う。侵害防止調査では、調査漏れがあってはならない。スクリーニングでは、上市予定の製品が権利存続中の他者特許の権利範囲(特許請求の範囲、クレーム)に入る可能性があるかどうかをざっと検討し、関連するものを抽出する。続いて、上市予定の後発品と、スクリーニングで抽出した特許の特許請求の範囲の記載を詳細に比較して、後発品上市の障害になりうる特許及び特許出願を抽出し、これらに対してどのようなアクションをとるのかを次の様に判断する。

2.2 障害になりうる特許(登録)が見つかった場合

障害になりうる特許(登録)が見つかった場合、潰すのか、ライセンスを受けるのか、設計(処方)変更するか、あるいは開発を中止または、特許が切れるまで延期するかを検討する。

特許を潰すためには、特許公報発行後6カ月以内であれば特許異議申立を、それ以降であれば特許無効審判を請求することになるが、いずれも特許取消・無効のための異議・請求理由が必要である。理由が新規性や進歩性の場合は、先行技術調査を行い証拠の収集・分析が急務である。理由が実施可能要件やサポート要件の場合は、特許発明を十分に検討して出願時の技術情報を収集しながら検討を行う必要がある。情報提供(付与後)も可能だが、既に他者が異議申立や無効審判を請求している場合は、審判合議体が提供した刊行物を参照する可能性があるものの、それ以外の場合は積極的に特許を潰しに行くことにはならない。また、特許を無効にするだけでなく、延長登録に瑕疵が認められる場合は延長登録無効審判により延長登録を無効にすることができる。延長登録が無効になると、特許期間延長はなかったものとなる。

ライセンスや特許権の譲受は、特許権者が開発中の後発品の先発品関連企業の場合は、オーソライズドジェネリック(AG)の場合を除き非常に難しい。AGの場合も、特許権者が関連企業や提携先でない場合は簡単にライセンスアウトをしない可能性がある。ただいくつかの特許庁の審判記録とAGの承認状況を照らし合わせてみると、まず無効審判等で潰しにいき、並行してライセンスを持ちかける、そして特許が潰れそうになったところで審判を取下げることを条件にライセンスを行っていることが窺われる事例がいくつかある。一方、特許権者が先発品とは無関係の企業やアカデミアの場合は、ライセンスの可能性は少し高くなるように思う。

特許を潰すことも、ライセンスも難しい場合、製剤特許や製法特許であれば処方や製法の変更を、物質特許や用途特許の場合は、開発中止や延期を検討することになる。尚、先発医薬品の一部の用途についてのみ用途特許が残っている場合は、虫食い申請が可能である。

2.3 障害になりうる特許出願(公開・公表・再公表)が見つかった場合

現在はまだ権利化されていないが、今後権利化されれば自社の製品が侵害する可能性がある他者の特許出願(公開・公表・再公表)が存在する場合は、この出願の権利化を阻止できるかどうかを検討する。公開段階の特許の権利化を阻止するためには、特許庁に情報提供することができる。情報提供とは、先行技術文献を刊行物等提出書と共に特許庁に提出するシステムのことである。提出した先行技術文献を審査に採用するかどうかは審査官の裁量によるが、提出者の名前は記載しなくても良いため正体を知られずに済む。

公開段階の他者特許を見つけた場合は、その時点での対策を検討するだけでなく、さらにその後の権利化状況を見守ること(ウオッチング)が必要である。ウオッチングを続けていれば、いち早く特許の成立・不成立を知ることができる。そのため早い段階で特許異議申立の準備に取り掛かることができるし、不成立が明確になれば心置きなく製品の開発を継続することができる。

この段階で、特許出願人が大学や研究機関等アカデミアの場合は、ライセンスや特許出願の譲受を検討してもよいだろう。技術内容によっては、他の後発メーカーに対して優位に立てることもあると思われる。

3 承認申請~承認~薬価収載前まで:パテントリンケージ(後発品の審査、事前調整)

承認申請後は、PMDAにおいて、後発医薬品が先発品の物質・用途特許を侵害していないかどうかを確認する。後発品の承認予定日に、先発品の有効成分に特許が存在することによって当該有効成分の製造そのものができない場合には後発品を承認しない。この段階で、PMDAから先発の特許に対する見解を求められることもあるようだが、具体的にどのような手続きが行われるのかは当事者にしかわからない。

後発品の承認は、年に2回(2月と8月)行われ、これにより先発サイドは後発品の参入を知ることになる。ここで、薬価収載(年2回、6月と12月)にあたり、特許権侵害の懸念がある品目について当事者間で事前調整がされる。調整した結果を、特定の時期までに厚労省の経済課に報告しなければならないが、具体的に先発特許権への侵害有無や特許の無効などについてまで報告することは求められておらず、事前調整について報告し薬価が収載されたからといって特許侵害のリスクが無くなるわけではない。

この段階では、社内の薬事部門と特許部門との間で、薬事情報と特許情報をしっかり共有し、薬事当局(PMDA)と特許当局(特許庁)へそれぞれ最適な対応ができるようにすることが重要である。

4 薬価収載(上市)後:特許権侵害訴訟の可能性、SDIの継続

後発医薬品の薬価収載は、販売の開始を意味し、特許権侵害で提訴される可能性がでてくる。薬価収載までに、物質・用途特許についてはPMDAでの審査で先発品の特許を侵害しないことが確認されているので、訴訟の対象になることはまずない。一方、事前調整において、物質・用途特許以外の特許(製剤や製法等)について当事者間で見解が一致しているとは限らないので、訴訟の対象になるのは物質・用途特許以外の特許である。ただし、最近では、承認申請や承認取得の段階で、侵害の予備的行為であるとして、訴えが提訴されることもあるので注意したい。

特許侵害訴訟が起きる(裁判所に訴状が提出される)と、1~2週間ほどで裁判所から被告に訴状が送達され、訴訟提起を知ることになる。ただし、裁判所に訴状を提出した際に原告(特許権者)がプレスリリースで発表することが多いため、この時に知らされることも少なく無い。訴状が届いたら内容を精査し、侵害の有無、特許の無効可能性等を早急に検討する。非侵害の場合は、非侵害であることを主張立証(否認)し、特許が無効であると考える場合には、その旨を主張立証(特許無効の主張)する。特許無効については、別途特許庁に特許無効審判を請求することも検討すべきである。さらに、先使用権などの実施権を有している可能性があればその旨を主張立証することができる。ただし、近時の裁判例(知財高裁平成29年(ネ)第10090号:ピタバスタチン製剤事件)より、この分野で先使用権が認められることは極めて難しいと言わざるを得ない。

ピタバスタチン製剤事件では、後発品の申請直前に先発の特許が登録された状態で登録された経緯があるので、パテントクリアランスを実施した後も引き続き調査のアップデート(SDI)を継続することをお薦めする。

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