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先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。
欧州連合(EU)ではパテントリンケージは禁止されているが、加盟国ベースでパテントリンケージ様の慣行が行われている国がある。
1.EU規則
EUでは,薬事当局(EMEA: European Medicines Agency)による医薬品の承認審査において,欧州規則,欧州指令に記載された理由以外で,医薬品の承認販売を拒絶,保留,取消すことはできない旨が規定されている[i]。ここで,欧州規則,欧州指令に記載された理由とは,品質,安全性,有効性にかかわる科学的基準(公衆衛生)であり,特許権侵害の有無等により,医薬品の承認販売を拒絶,保留,取消すことはできないことが規定されているといえる。
欧州委員会は,パテントリンケージはEUにとって問題であり続ける,後発医薬品のタイムリーな参入を妨げる,さらにパテントリンケージは導入すべきでないとのスタンスである。
2.EU締約国におけるパテントリンケージ様の慣行[ii]
上述のように,EU規則によりパテントリンケージが禁止されているにも関わらず,欧州の後発医薬品メーカーの団体(Medicines for Europe)の白書[iii]には,「EU下では禁止されている,すなわち違法なパテントリンケージが2009年の報告書に記載されている」と指摘されており,EU締約国レベルでパテントリンケージないしパテントリンケージに類する仕組みが存在することが報告されている。さらに,以下に示す通り,販売承認リンケージ(Marketing authorization linkage),薬価収載リンケージ(Pricing & reimbursement linkage),調達リンケージ(Procurement linkage),及び処方リストに基づくリンケージ(Prescription listing based linkage)の四つに分類されるようなパテントリンケージ様の慣行が紹介されている。
(1)販売承認リンケージ(Marketing authorization linkage)
販売承認リンケージとは,後発医薬品の薬事承認(MA: Marketing authorization)が,先発医薬品の特許権の満了と関係している,あるいは,先発メーカーが,後発医薬品の当局への承認申請行為が特許侵害であると主張して,後発医薬品の販売承認取得手続きの悪用・誤用を行うことにより,先発メーカーによる特許侵害訴訟に発展する運用をいう。
ポルトガルには,パテントリンケージの習慣があり,後発品が販売承認を申請すると,米国と同様の流れで特許侵害訴訟や仲裁手続きに発展する[iv]。またスロバキアにも同様の運用がある。さらにハンガリーでは,後発品の販売承認を申請した者に,先発医薬品の特許を侵害する意思がないことを約束(sign)させている。またフランスでも,後発医薬品の申請者は,申請時に先発サイドに通知が必要とされている。
(2)薬価収載リンケージ(Pricing & reimbursement linkage)
薬価収載リンケージとは,後発品の薬価収載が特許権侵害だと考える国で,侵害リスクを避けるために,先発の特許切れまで薬価収載の申請を待つよう求められる運用をいう。
先発の特許切れまで薬価収載しない国では,特許権者が,特許期間中は後発品の薬価収載しないよう,当局に働きかける事例が認められる。例えばイタリアでは,いわゆる「Balduzzi法令」[v]により,先発の特許切れまで,後発品の薬価収載を行わないことがある。またポーランドでは,後発品は,薬価収載を申請する前に,製品が市場で入手可能であることを確認する必要がある[vi]。そのため,最初の販売は,特許侵害であるとみなされるか,市場独占権(Market Exclusivity)によって遮られることになり,医薬品は,販売承認を得ても,薬価収載されるまで,すなわち特許または市場独占権が満了するまで,処方することができないので,事実上後発品の販売時期が遅れることになる。さらにドイツとフランスでは,後発品の薬価収載前に,特許侵害していないことの声明が必要であり,やはり事実上後発医薬品の販売時期が遅れることになる。
(3)調達リンケージ(Procurement linkage)
調達リンケージとは,先発メーカーが,EU加盟国で医薬品の調達を管轄する当局とのコミュニケーション手順を悪用・誤用して,後発品の市場参入を混乱させる運用をいう。先発メーカーが特許権を主張することにより,開発中の後発医薬品の調達手続きへのアクセスを遅らせ,市場参入を遅らせるという影響がある。
ドイツでは,先発の特許期間中に,後発品を医薬品リストに掲載することは,後発品の販売が特許切れ後に行われる場合も,特許侵害行為とみなされる[vii]。またオランダでは,医薬品データベースに後発品を掲載することは,特許侵害行為とみなされる[viii]。
(4)処方リストに基づくリンケージ(Prescription listing based linkage)
処方リストに基づくリンケージとは,医療従事者が医薬品を処方するために,医薬品の処方リストへの掲載を求める国において,特許権者が,このリストへの掲載行為が特許侵害行為であると主張し,処方リストへの掲載行為に対して,侵害訴訟を提起する運用をいう。
[i] 欧州規則 No.726/2004第81条,欧州指令 2001/83/EC第126条
[ii] 田中康子(2022)「日本のパテントリンケージの課題解決に向けて~欧州との比較から~」『国際商事法務』 Vol.50(2022), No.4 418-424, 国際商事法研究所
[iii] White Paper (2020): Anatomy of a Failure to Launch, 16頁(5.2)(https://www.medicinesforeurope.com/docs/2020.11.04-Medicines-for-Europe-Whitepaper.pdf)(as of May 8, 2023)
[iv] Portugal Law No. 62/2011.
[v] Decree-law no. 158 of 13 September 2012, converted with amendments into Law no. 189 of 8 November 2012.
[vi] Reimbursement Act 2011 in Poland, art.25(3).
[vii] Simvastatin, German Federal Supreme Court, 5 December 2006
[viii] Pharmachemie v. GlaxoGroup, Supremecourt (Hoge Raad), 22 June 2012.
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