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『さあ、「知財英語」で話そう 』第3回:知財英語プレゼンテーション2(前編)-Main body

『さあ、「知財英語」で話そう』は、「知財英語コミュニケーション」を身につけるためのエッセンスを紹介するコラムです。2016年10月から2017年8月まで、レクシスネクシス・ジャパンのBIZLAWにて全9編の連載をお届けしましたが、2020年にBIZLAWが閉鎖されましたので、当サイトで改めて連載することにいたします。

いまや「知財」は事業戦略の柱、そして「英語」はビジネスの要。「知財英語コミュニケーション」は、知財部員や弁理士だけでなく、法務部員、研究者、エンジニア、技術営業、弁護士等々、世界を相手に仕事をするグローバル人財にとって必要なスキルなのです。ところが「知財英語」は、知財や契約に関する法律用語の他、技術に関するテクニカルワードも含むため、英会話教室ではなかなか学ぶことができません。この連載では、「知財英語コミュニケーション」を身につけるためのエッセンスを、全6回に渡り紹介します。今回は、第3回「知財英語プレゼンテーション2(前編)-Main body」をお送りします。 

プレゼンの「本論」では何を語るか


プレゼンテーションを構成する「Starting presentation」、「Main Body」、「Closing presentation」、「Dealing with questions」のうち、前回は、脇役にあたる「Starting presentation」、「Closing presentation」、「Dealing with questions」を取り上げた。
今回は、いよいよ「知財英語プレゼンテーション」の真⾻頂である主役「Main body」(本論)の登場である。
Main body のポイントは、

  • 1)Who is the audience? (聴衆は誰か)
  • 2)What is your message? (伝えたいことは何か)
  • 3)Order of contents (話す順番=構成)

の3 つである。つまり、「誰に、何を、どう伝えるのか」である。

<誰に>

プレゼンテーションスキルは、「相⼿が理解できる⾔葉で表現する⼒」であると、第1 回で述べた。そのためにはまず「相⼿」、つまり聴衆は誰なのかを知る必要がある。⽇本語であるか英語であるかを問わず、またテーマの内容も問わないポイントだが、専⾨的な内容を含む知財英語プレゼンテーションでは、誰が聴衆なのかにより、使⽤する⾔葉、説明の内容、説明の仕⽅を変える必要があるので、特に重要なポイントと⾔える。知財英語プレゼンテーションの聴衆としては、例えば、外国の特許代理⼈、海外関係会社のカウンターパートやマネージャー、共同研究開発の相⼿、または業界団体の仲間あたりが想定されるのではないだろうか。

  • ・知財の専⾨家
  • ・技術者または技術系のマネジメント
  • ・それ以外の⼈

「知財の専⾨家」が聴衆の場合は、知財⽤語をそのまま⽤いて、難しいことを難しい⾔葉で説明すれば理解してもらえるので、簡単である。Patentability, infringement, patentinvalidation trial… そのままでOK である。「技術者や技術系のマネジメント」が聴衆の場合は、知財⽤語⾃体は知っているが、意味や内容に関する認識が⼈によって異なることがあるので、要所要所で補⾜説明を⼊れると誤解がないだろう。

「それ以外の⼈」が聴衆の場合は、知財⽤語をそのまま⽤いただけでは理解してもらえないことも多い。⼗分に理解してもらうためには、難しい知財⽤語を容易な⾔葉に⾔い換える必要がある。また法律上の⾔葉や条⽂番号を敬遠する傾向があるので、多⽤しないようにするようにしたい。難しい⾔葉を容易な⾔葉に⾔い換えるには、その⾔葉を⼼底理解していないと⾔い換えられない。事前にどう表現するかを考えておきたい。ここで、知財・法務・技術等の分野で専⾨的な仕事をしている⼈にとって、「難しい⾔葉を、容易な⾔葉で表現すると正確性に⽋けてしまう」という思いが、⼤きなハードルとなる。例えば次の「特許性」に関する説明1)〜3)について、皆さんはどんな感想を持つだろうか?

  • 1)特許法29 条、29 条の2、39 条等に規定されている、特許権を取得するための要件です
  • 2)新規性や進歩性のことです
  • 3)特許を取るための条件です

皆さんが、知財部員等の「知財の専⾨家」であれば、1)が妥当、2)でもまあ許せる、でも3)は正しくない、と思い、営業部員等の「それ以外の⼈」なら、3)以外は良くわからない、と思うのではないだろうか?つまり、社内の知財教育で、知財部員が営業部員に対して、「特許性とは、特許法29 条、29条の2、39 条等に規定されている、特許権を取得するための要件です」と説明しても理解されず、プレゼンテーションの⽬的を達成できないことになる。いくら話し⼿が正しいと思うことでも聴衆が理解できなければ意味がない。もちろん、特許法上の⼿続きについて学んでいる⼈に説明するなら1)とすべきだろうが、それ以外は⽬的や聴衆のレベルに合わせて⾔い換えることが⼤切である。

<何を、どう伝えるか>

聴衆に何を伝え、その結果どうして欲しいのか、つまりプレゼンテーションの⽬的が何かを話し⼿⾃⾝がはっきりと認識することが、伝わるプレゼンテーションのために必須である。そのうえで、その⽬的を達成するために、どう伝えるのかを考えることになる。

ここからは、具体例を挙げながら解説していきたい。次の様な前提で急遽プレゼンテーションをする必要が出てきたとしよう。

<前提>
あなたは⽇本企業ABC 株式会社の知財部員である。ABC 社は、⽶国のX 社から特許権P について⽇本での独占的ライセンスを受けて製品Qを販売している。先⽉、競合であるY 社が特許権P を侵害する製品を国内で販売しているのを⾒つけた。X 社にこの事実を知らせたところ、それはけしからん、特許権侵害訴訟を提起するので、協⼒して欲しいとのこと。そこであなたはX 社に、「⽇本では、特許権侵害訴訟を起こすとディフェンスとして特許無効審判を請求されることが多い」と伝えると、A 社から「⽇本で訴訟をするのは初めてだ。来週弊社の知財法務本部⻑、知財部担当者、海外事業部⻑が⽇本に出張する。御社を訪問するので、⽇本の特許無効審判について説明して欲しい。短い旅程の中で法律事務所とも打合せをするのでプレゼンは20 分程度でお願いしたい。」との返事が来た。

<プレゼンの準備>

1) Who is the audience? (聴衆は誰か)

⽶国企業の知財法務本部⻑、知財部担当者は、⽶国の弁護⼠資格または特許弁護⼠資格を有していると考えてよい。海外事業部⻑は、グローバルビジネスのセンスを有していると思われるが、知財レベルは不明である。そして、3 ⼈はいずれも⽶国⼈である。⽇本で訴訟をするのは初めてということから、特許弁護⼠であっても⽇本の特許制度については素⼈だと思って準備すべきである。筆者の経験から、⽇本の知財部員が⽶国特許制度を知っているほど、彼らは⽇本の制度を知らない。

2) What is your message? (伝えたいことは何か)

来⽇の⽬的から考えると、単に⽇本の特許制度を勉強しに来るわけではない。特許権侵害訴訟を提起するのだから、そのディフェンスである無効審判は、訴訟提起上のリスクになりうる。よって、そのリスクにどのように対応すればよいか、事前に準備すべきことがあるか、を知りたいだろう。最終的に訴訟を提起するかどうかの判断材料の⼀部になるはずだ。あなたは、彼らの判断材料として、特許無効審判とは何か、を伝える必要がある。

3) Order of Contents (話の順番=構成)

以上を踏まえると、プレゼンテーションには次の様な項⽬を⼊れる必要がある。

  • ・特許無効審判制度とは何か
  • ・どのような場合に、特許無効審判を利⽤するか
  • ・特許無効審判制度の概要
  • ・無効審判請求された場合の特許権者の取りうるアクション

4) プレゼンテーション例の作成

さて、実際にスライドを作成してみよう。英語のプレゼンテーションに慣れていない⼈には、スライドだけでなく、スクリプト(セリフ)も準備して欲しい。今回は、Main body のスライドを準備するところまでに留め、次回、知財英語プレゼンテーション2 Annex としてスクリプトも含めたプレゼンテーション全体を掲載するので、お⼿元でスクリプト作成にチャレンジしてみていただければと思う。Starting presentation は、前回の例をほぼそのまま使えるであろう。

スライド1:Agenda

まずは、Agenda である。
Firstly, Iʼll talk about what is a Patent Invalidation Trial, second Overview of the trial, and third Counter actions ….. というセンテンスを使って、全体の内容の構成と話の順番をはっきりと伝える。

スライド2:What is a Patent Invalidation Trial

続いて、項⽬1 に移る。
Letʼs start with What is a Patent Invalidation Trial.
または
Iʼm going to tell you about What is a Patent Invalidation Trial.
といって説明を始めるとよい。

スライドが少しbusy な感もあるが、専⾨的内容について、プレゼン初⼼者が話す場合は、多少busy になっても⽂章でしっかり説明があるとよい。万⼀、聴き取りにくい場合に、聴衆がスライドを読んで理解してくれるからである。しかし、かといって話し⼿がスライドの⽂字を読みながらプレゼンしてはいけない。スライドは、聴衆に⾒せるものであって、話し⼿が読むものではない。⽬線はできるだけ聴衆へ向けよう。中ほどの「b/w」は、between の略である。英語プレゼンテーションのスライドでは、⽂書を短くしたいときに、この様な略号が使われることがある。この他、w/ : with, w/o: without,TBD: to be decided(未定)、cont.: continued(続き)等も⾒かける。

スライド3:Overview of a Patent Invalidation Trial


次に、項⽬2 である。

Next, I will move on to Overview of a Patent Invalidation Trial. で説明を始める。Overview of Patent Invalidation Trial は、3 枚のスライドに分けて(1)〜(7)の項⽬に細分化されているので、This section is divided into seven items. とすると聞き⼿が安⼼する。(4)の、JPY 49,500/case の読み⽅、説明の仕⽅は事前に決めて練習をしておくと、本番で楽である。特に、数字の読みは慣れないと、そこで⽌まってしまう。ちなみに、49,500 は、forty nine thousands and five hundreds である。

スライド4:Cont. (前のスライドの続き)


前のスライドからの続きである。

Next is the fifth item of Overview of a Patent Invalidation Trial. と⾔って説明を始める。このスライドは、どのような場合に特許が無効になるか、特許法123 条1 項に記載された無効理由の説明である。特許法の条⽂に基づいた説明は必要だが、条⽂そのものを紹介してもわかりにくい。また、今回のプレゼンの⽬的は、制度の勉強ではないので、条⽂に列挙された全ての無効理由を取り上げる必要もないと考える。特にメジャーな、novelty, inventive step, 及びwritten description requirements について強調して説明すれば⼗分であろう。
例えば、
The most important grounds here are novelty, inventive step and written description requirements. の様になる。

スライド5:Cont. (前のスライドの続き)

こちらも前のスライドの続きなので、The next items here are Appeal against the decision and Effect of trial decision. と始めればよい。さらに⼝頭で、「審決について不満のある当事者は、いずれも知財⾼裁に控訴でき、さらに最⾼裁に上告できる」という説明を加えるとよいだろう。

スライド6:Counter Actions by a Patentee

次は、3 つ⽬の項⽬、特許権者が取りうる対応としてのCorrection of Claim(訂正)に関する説明である。Now, Iʼll show you what we can do when the invalidation trial is filed. に続けて説明する。ここでは、特許無効審判を請求された特許権者は、特許無効審決を避けるために訂正請求をすることができることを説明すると同時に、どんな訂正でもOK なのではなく、特許法で定められた⼀定の訂正要件があり、必ずしも訂正請求で無効を逃れられるわけではないことを伝えておこう。さらに、無効審判が請求される前に、訂正審判を請求して、無効にならないように特許権を強化しておく⽅法もあることを付け加えておこう。

スライド7:Summary

いよいよ最後のスライド、Summary である。前回のClosing の部分でも説明したように、再度プレゼンテーションで説明した全てのエッセンスをまとめ、聴衆の⽬的に合致するようなSummary に仕上げるとインパクトが上がる。

5) スクリプトの作成

プレゼンテーションの時間は20 分しかないので、Q&A として5 分を加味し、15 分で説明できるスクリプトを作成する。
次回は、Starting Presentation からClosing までのスクリプト例を紹介してプレゼンテーションを仕上げる。

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