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『さあ、「知財英語」で話そう 』第7回:現地代理人とのコミュニケーション(前編) 

『さあ、「知財英語」で話そう』は、「知財英語コミュニケーション」を身につけるためのエッセンスを紹介するコラムです。2016年10月から2017年8月まで、レクシスネクシス・ジャパンのBIZLAWにて全9編の連載をお届けしましたが、2020年にBIZLAWが閉鎖されましたので、当サイトで改めて連載することにいたします。

いまや「知財」は事業戦略の柱、そして「英語」はビジネスの要。「知財英語コミュニケーション」は、知財部員や弁理士だけでなく、法務部員、研究者、エンジニア、技術営業、弁護士等々、世界を相手に仕事をするグローバル人財にとって必要なスキルなのです。ところが「知財英語」は、知財や契約に関する法律用語の他、技術に関するテクニカルワードも含むため、英会話教室ではなかなか学ぶことができません。この連載では、「知財英語コミュニケーション」を身につけるためのエッセンスを、全6回に渡り紹介します。今回は、第5回「知財英語ディスカッション1」をお送りします。 

Interview, Office visit, Dining


これまで、第1 回の「知財英語コミュニケーションとは何か?」を⽪切りに、第2 回〜第3回では「知財英語プレゼンテーション」について、第4 回〜第5 回では「知財英語ディスカッション」について解説してきた。
少しでも実感がわき、実践で使いやすいよう筆者の実務経験に基づく実例を挙げているので、皆さんがプレゼンテーションやディスカッションの準備をする際には思い出して読み返していただければと思う。特に、「第1 回 技術部⻑とのやり取りの部分」、「第3 回(後編) スクリプト付きプレゼンテーションの例」、「第5 回 「模擬Teleconference」」には、知財英語とビジネス英語のキーフレーズをちりばめてあるので、繰り返し⾳読すれば、知財英語コミュニケーションスキルは格段にアップする。

ところで、第1 回の冒頭に、『出願からディナーまで「知財英語」コミュニケーション』と記載されていたのを覚えているだろうか。ビジネスで知財英語を⽤いる場⾯では、プレゼンテーションやディスカッションだけではなく、それらの場⾯に付随する「現地代理⼈とのコミュニケーション」が漏れなくついてくる。例えば、ディスカッションのために現地代理⼈の事務所を訪れる際、あるいは現地代理⼈があなたの会社を訪れる際のコミュニケーション、そしてランチやディナーを共にする際のコミュニケーションである。

今回は「現地代理⼈とのコミュニケーション 1」として、「USPTO(United States Patent and Trademark Office:⽶国特許商標庁)の審査官と⾯接するためにワシントンDC エリアの特許事務所を訪れ、現地代理⼈と打合せの後USPTO で審査官と⾯接、そして⼣⾷を共にする」という設定で、Interview, Office visit, Dining のポイントを解説する。
(Letter and email は、次回)

特許事務所訪問 Office Visit


特許事務所に着いたら、Reception(受付)へ向かうのだが、その前に、建物への⼊館⼿続きが必要な場合がある。⾝分証明書の提⽰を求められたり、その場で写真をとって、写真付きの簡易⼊館証を渡されたりすることもあるので少し時間がかかる。⾝分証明書は、⽶国では頻繁に提⽰を求められる。写真付きのもの(Photo ID)が必須なのでパスポートを常に携⾏するとよいだろう。さて、会議室に通されたらまず挨拶、そして打合せのスタートとなる。アウェイであっても、打合せの進⾏は代理⼈に任せず、⾃ら⽬的をはっきりと述べたうえで積極的に進めてよい。この打合せで何をしたいのか、は必ず伝えよう。 以下に仮想例を記載する。

打合せ時の想定問答
Takahashi: Nice to see you, again, Mr. Bates. Nice to meet you, Ms. Hayes. Let me introduce Mr. Doi, the co-inventor in the case, from our Yokohama research center.
<⼆回⽬以降に会う場合は、Nice to see you. 初めて会う場合は、Nice to meet you.>
(⾼橋:ベイツさんこんにちは。ヘイズさんこんにちは。本件の発明者で弊社の横浜研究所の⼟井さんを紹介します。)


Bates: Good to see you, Takahashi-san. Nice to meet you, Doi-san. Have a seat please. How was your flight?
(ベイツ:⾼橋さん、またお会いできて嬉しいです(ほぼ、“こんにちは”の意)。⼟井さん
初めまして。どうぞおかけください。フライトはいかがでしたか?)


Takahashi: It was good, Itʼs a long flight as you know, but at least I could enjoy watching some movies.
<決して、Iʼm sleepy due to a jet-lag. 等と⾔わないこと。半分ジョークのつもりでも、ビジネスの場で「眠いです」というのは失礼にあたる。>
(⾼橋:良かったですよ。機内では映画を楽しみました。)


Hayes: And how are you doing, Doi-san? Is this your first visit to DC?
(ヘイズ:⼟井さんこんにちは。DC へは初めてですか?)


Doi: Iʼm fine, thanks. Iʼve visited New York City twice and LA once, but itʼs my first time in DC. And Iʼve never been to a law firm in the US before, so Iʼm very much looking forward to it.
(⼟井:こんにちは。ニューヨークへ2 回、LA には1 度⾏ったことがありますが、こちらは初めてです。⽶国の法律事務所を訪れるのも初めてなので、ワクワクしています。)


Takahashi: Well, we are here to talk about what to discuss with the examiner in the interview. Iʼve never had an opportunity to have an interview with the USPTO examiner,
so could you tell us what to expect?
<Small talk が済んだら本題へ。⾼橋さんは下線部のように、打合せの⽬的を述べている。>
(⾼橋:(えー、)審査官との⾯接で何を議論するかについてお話したいと思います。USPTOの審査官と⾯接するのは初めてですので、USPTO での⾯接について少し教えていただけますか?)


Hayes: Sure. Weʼll visit the head-quarters of the USPTO in Alexandria and meet the examiners, letʼs see… OK, here, Sudhir Gupta, assistant examiner, and Anna Petrovsky,primary examiner. I will introduce you to them and share the present invention and examination status.
(ヘイズ:わかりました。これからアレキサンドリアにあるUSPTO の本庁を訪れ審査官に会います。審査官、ええーっと、審査官補が スディル グプタさん、審査官がアナ ペトロフスキーさんですね。お⼆⼈(⾼橋さんと⼟井さん)を審査官に紹介してから、まず本願発明の説明と審査の現状の確認から⼊ります。)


Takahashi: I think the examiners should have a good understanding of the invention since they have already examined it.
(⾼橋:審査官は本願を審査しているのですから、本発明についてすでに良くご存知だと思いますが。)


Bates: Youʼre right, Takahashi-san, they have examined the case, but each examiner is handling many cases at the same time. So, it would be a good idea to start by reminding them of the invention and the current examination status.
(ベイツ:⾼橋さんのおっしゃる通り、彼らはこの案件の審査をしています、でも審査官は⼀度にたくさんのケースを扱っています。なので、まずは本件発明と審査の現状の確認から始めるのがよいと思います。)


Takahashi: I see. In that case, weʼd also better explain the background of the invention.
(⾼橋:わかりました。では、発明の背景も説明したほうがよいですね。)


Hayes: Thatʼs a good idea. Doi-san will explain the outline of the invention including the background, then move on to a comparison with the prior art and the present invention.At this point, we should make sure if the examiners think the present invention is novel over the prior art. So, we can focus on arguing unobviousness.
(ヘイズ:それがいいと思います。⼟井さんが背景を含めて発明の概要を説明し、先⾏技術との⽐較へと移りましょう。その際、審査官は、本願発明が先⾏技術に対して新規性を有する、と考えているかどうか確認しましょう。そうすれば、⾮⾃明性の議論に集中できます。)


Doi: I just recently carried out some additional experiments and have the results along with the drawings. I believe we can assert that the present invention is not obvious from the prior art.
(⼟井:つい先⽇追加実験を⾏い、その結果を図⾯と⼀緒にお持ちしました。本願発明は先⾏技術から⾃明ではないと主張できると思っています。)


Bates: Excellent! The drawings and experimentation data will help us overcome this outstanding office action.
(ベイツ:素晴らしい。図⾯と実験データは今回のオフィスアクションを解消するのに役⽴ちますよ。)

審査官との⾯接 Interview with examiners

今回の担当審査官は、名前からするとインド系とロシア系の様⼦。USPTO の審査官は、英語を⺟国語としない⼈が多く、発⾳やボキャブラリーが⽶国⼈とは異なる。そのため、⾯接では、ミスコミュニケーションとならない様、聴きとれない場合・理解できない場合は、遠慮せず⼀つ⼀つ確認しながら進めよう。⾯と向かって話ができる良い機会なので、今回の⼟井さんのように、図⾯やデータを使ったり模型を使ったりして説明すると効果的である。ベイツさんが⾔っているように、USPTO の審査官は多くのケースを並⾏して扱っているので、まず本件の内容と状況、そして今回の⾯接の⽬的を必ず確認する。そして、⾯接の最後には、議論したこと、合意したこと、今後のアクション等をメモに残しておこう。なお、今回は、USPTO 本庁でのライブインタビューを想定したが、電話での⾯接も受け付けてくれるので、Teleconference に⾃信が出て来たら、わざわざ⽶国に出張しなくて済むのである。知財英語コミュニケーションスキルを⾝につければ、時間と費⽤を節約して効率よく仕事ができるようになる。

⾷事 Dining

さて、審査官との⾯接が終わって代理⼈とのディナー。
「何を話せばよいの?」が、最⼤の課題ではないだろうか。

お勧めのトピックは、スポーツ、映画、⾷べ物である。時事問題、政治・経済もあまり深⼊りしなければOK。グローバルビジネスの席では、楽しく和やかな雰囲気作りが⼤切なことはもちろん、「どんな話をするのか」によって、あなたの“⼈となり”が評価されていることを忘れてはいけない。現地代理⼈のみならず、グローバルビジネスパートナーたちは、⾊々な側⾯から私たちを評価している。よって、スポーツや映画等のやわらかい話をしながらも、時折時事問題や政治・経済の話題、あるいはシェイクスピアに出てくるセリフ等をおり交ぜて、奥深さや教養をさりげなく⾒せておきたい。ウイットの効いたジョークも好印象である。ただし、笑いのツボは⽇本⼈とだいぶ違うので、⽇本のバラエティ番組で流⾏りのネタや、⽇本流のダジャレは全く理解されない。

スポーツ
⽶国なら、野球、バスケットボール、フットボール(⽇本で⾔うアメリカンフットボール)、ゴルフあたりが無難である。その⽇の新聞やニュースで話題になっているものについて、情報を仕⼊れておけば⼼強い。

映画
映画俳優を含め、趣味が合えば盛り上がりやすい話題である。最近の作品に限らず、多少古くてもハリウッドの名作なら知っている⼈が多い。なお、タイトルは、英語版(原題)と⽇本語版で異なることがある(以下参照)。

⾷べ物
まさに今⾷べているものについて話せばよいので⼿っ取り早い。ポイントは和⾷の場合。横⽂字の⾷べ物は⽚仮名ながら⼀応名前はわかるが、和⾷は普段⽇本語で表現しているため、英語で何というのかとっさにわからないことがある。是⾮予習しておこう。特に、ポピュラーな寿司ネタくらいはすぐに⾔えるように(以下参照)。

また会⾷をセッティングする場合には、主義(ベジタリアン等)や宗教上の制限、アレルギーの有無について確認しておくようにしよう。ベジタリアンは、菜⾷主義者のことだが、本当に野菜しか⾷べない⼈、卵と⿂もOK な⼈、さらに鶏⾁もOK な⼈等⾊々いる。宗教上の制限は、イスラム教、ヒンズー教、ユダヤ教が厳格である。イスラム教は豚⾁とアルコールはNG、ヒンズー教は⽜がNG、ユダヤ教はKosher(コーシャ)と呼ばれる厳格な規定に基づく⾷物を⾷べるという習慣がある。細かい規則もあるようなので必ず事前に聞いておこう。以上の様に、楽しく和やかな雰囲気で⾷事ができるよう気配りすることで、現地代理⼈との関係が良くなり、より充実したコミュニケーションができるようになる。そして結果として良い仕事につながる。

ゆえに、知財英語コミュニケーションは、「出願からディナーまで」なのである。

(執筆者:田中康子)

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